ダイアログをより良く読むためのワークショップ

マイケル・ホワイトの翻訳を数多く手がけてくれている奥野光さんと一緒に「マイケル・ホワイトのダイアログ」というワークショップをシリーズ化しておこなっています。

マイケル・ホワイトの文章は難解であることは、みなが同意すると思いますが、ダイアログの部分は十分に理解できるものです。ところが分かるがゆえに、読み飛ばすこともできるのです。じっくりと、マイケル・ホワイトがどのような言葉遣いをして、それがどのように作用を及ぼしているのか、つまりどのように新しいストーリーが生まれることに貢献しているのかまでなかなか思いを馳せることはないでしょう。

つまり、ダイアログの部分でいったん止まり、じっくりとそのことについて考えていく必要があるということです。

このときに、そのことをしっかりと理解するということは、ひとつの正しい解釈を求めるのではありません。ここで、必要になる行為とは、テキストをよく読むということなのです。

ギアーツを引用しよう。「テクストはよく読まれるために、複数の文脈化を必要とする」(1983)。

(マイケル・ホワイト「セラピストの人生のという物語」/邦訳43頁)

テキストをよく読むとは、ひとつの正しい解釈を知るのではなく、いろいろな視点(つまりは文脈)から読むことが必要になります。

ワークショップの流れは、たいへんシンプルでたぶん誰でも、どこでもできるようなものです。ただ、奥野光さんと一緒にするので、マイケルの原文からテキストを読んできた人の「読み方」を知る機会があるという特典がついてはいます。この特典は、このワークショップに花を添えてくれますが、「よく読む」ための本質的な部分ではないと思っています。(この特典は、たいへん魅力的なものであることはよく分かるのですが・・・)

 

さて、それではワークショップの構造を説明します。

  1.  奥野光さんと私が選んだマイケル・ホワイトの文章・手紙・ダイアログで短いものを、参加者に協力してもらい、朗読してもらいます。
  2.  その朗読を聞いてから、小グループになり、自己紹介、このワークショップに参加したいきさつやきっかけ、そして朗読されたテキストについて思ったこと、感じたこと、気づいたこと、共鳴したことを分かち合います。
  3.  小グループによるダイアログが終わったあとに、そのワークショップのために選んだ、マイケル・ホワイトのダイアログの上演をおこないます。
    上演といっても、セリフをすべて覚えてもらい、身体的な表現を伴うようなものではありません。参加者の中から有志を募り、役割を決めておきます。そして、その日は、その人になりきってもらい、その箇所を読んでもらうというものです。
    マイケル・ホワイトの逐語は、所々で解説的な文章も含まれることがありますので、そのような箇所を読む人も決めておきます。
    上演に関しては、長くなるようであれば、幕間をもうけて、少し休憩するようにします。なお、私たちのワークショップでは、お菓子を十分に用意していますので、上演を見る際には、お菓子を手に気軽に見てもらうようにしてもらっています。
  4.  上演が終わると、役をしてくれた人に、それぞれの箇所を読み、他の箇所を読まれるという経験を通じて、感じたところを分かち合ってもらいます。これは、役に入った人だけが感じることですので、この部分が共有されることも重要なことではないかと思っています。
  5.  小グループに戻り、上演されたダイアログについていろいろと語ってもらいます。どのように語ってもらうのかの指示をすることはありません。自分のことを語り、人の語りを聞き、そして、自分の語りを語り直すと言うことを繰り返すだけです。
    時間的には、小一時間ほどかけますが、4人ぐらいのグループであれば、途切れることなくいろいろと語ることができるようです。このような語り合いを見ていて思うのは、対人支援の場に興味を持つ人は、このようなダイアログについて語ることはたいへん興味をそそられることであるということです。
  6.  (10時頃から始めるとこのぐらいで昼食にする必要があります)
  7.  その後、全体に戻り、ダイアログを切りのいいところに分けて、それぞれ個人が、あるいはグループが気づいたこと、疑問に思ったこと、印象に残ったことなどを共有していきます。このときに、ファシリテーターが何か言えることがあれば、言いますが、共有するだけでも十分に興味深いプロセスです。
    もう一度、ダイアログを最初から最後まで追っていきますので、それなりにしっかりと時間をとります。
  8.  そして、最後に小グループに戻り、今日得たこと、気づきとして持ち帰れることなどをシェアして、ワークショップが終わりになります。
    基本的に10時から16時までのワークショップで、ここまでのプロセスで、ほぼ時間いっぱいとなります。

 

ダイアログの上演を見て、それぞれの参加者がタップリと自分の言葉で語る機会を持つこと、そして、できるだけゆっくりダイアログを追うことで理解が深まること、このような側面によって、このワークショップに参加する満足度が上がるのかなと思っているところです。

このワークショップはどこでもできるようなものだと思っていますので、是非試してみて欲しいと思います。

使用するダイアログは、手始めに「ナラティヴ実践地図」に収録されているものをおすすめします。

試してみましたら、どうだったのか是非教えてくださいね。