「人材開発は100%経営のためにある」という返答に対して

社会構成主義の潮流が、組織開発の領域にも及んできているということを聞いて、友人が進めてくれた本を読み進めています。「対話型組織開発」をたいへん興味深く読み終えて、「組織開発の探究」まで読み進めてきました。

 

一応断っておきたいのですが、この領域のことについて、私は門外漢ですので、ほとんど読んだことがありませんでした。言い方を変えれば、毎年、ビジネス書として大量に出版されるのを、一種しらけた目で見ていたような気がします。

 

ですが、ナラティヴ・セラピーを一応は取り組んでいるものとして、「対話型組織開発」も「組織開発の探求」もたいへん興味深く読み進めてきました。

 

ただ、最後の最後に次の言葉がでてきた時、人一人ひとりに対応するカウンセラーとして、立ち止まってしまいました。その箇所を少し引用しましょう。

 

中村:そうですね。もちろん、科学的管理や技術革新のアンチテーゼとして、組織開発は人間的側面を扱うものだ、と振り切ってしまってもいいのかもしれません。しかし、それだけだと組織というシステムの一部しか捉えることができないので、チームや組織のデベロップメントは難しいと考えます。組織開発の研究者、実践者はやはり総合的な視点を持ち続けることが大切なのではないかと思うのです。

 

中原:その点については、私も、13年務めた東京大学を辞め、2018年から立教大学経営学部に移籍し、人材開発や組織開発の教科やゼミを担当することになりましたので、非常に興味があります。こうした議論の背景には、結局、組織開発とは経営に資するべきものなのか、それとも人に資するべきものなのか、という問いがありますよね。その点、中村さんはどうお考えですか?

 

中村:儲けるためか、人のためかと問われれば、当然、人のためだと思います。ですが、経営に資するというのは、必ずしも儲けに資するということとは違うと考えます。人がそこで働きがいを感じて幸せに働けるか、チームワークのいい職場を作れるか、活き活きとした組織文化を醸成できるか、といったことも大事な経営課題だからです。だから、経営に資するべきである、ともいえますね。

 

中原:私は、人材開発について、同様の問いを投げかけられたときに、まずは「人材開発は100%経営のためにある」と答えます。先生とは一見逆で、到達するところは一緒です。一言で「経営のため」と行っても、今期の売り上げが上がるといったような財務的な内容では、経営に役立つという意味ではありません。「いくら儲かるのか」というFinancial Outcome(財務的指標)ではなく、Human Resource Outcome(人的資源指標)を通して経営に資するべきだと考えます。
「組織開発の探究」368〜369頁

 

ここで私が立ち止まったのは、「人材を開発するのは100%(完全に)経営のためにある」という「出発点」のことです。本書の中で、同じような技法や手法を使ったとしても、その根底にある価値観をしっかりと理解しておくことの必要性を何度も述べている以上、この出発点を問題にしたいのです。

 

中村さんは、そのスタート地点を、当然なこととして「儲けるためか、人のためかと問われれば、当然、人のためだと思います」と述べます。一方で、中原さんは、「人材開発は100%経営のためにある」と言い切る。そして、それが、同じところに到達できると見なしています。

 

本当なのだろうか? これほどの違った姿勢が同じところに到達できるのだろうか? 私たち労働者は、「結局はこの取り組みは100%経営のためにある」ことを理解して、本当に取り組めるようになるのだろうか? 自分は結局は、「人的資源指標」なのだというところを出発点にしていいのだろうか? 会社が存続していくことの重要性は分かる。しかし、どこを出発点とするのかについては、倫理的な問題だろう、と思える。この点については、次に日本に行った時にでも、いろいろな人と対話を試みてみたい。

 

 

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