ナラティヴ・メディエーション(デモセッションを通じて)

ナラティヴ・セラピーは、家族療法の流れにあることも要因であるかと思いますが、家族面接やカップル・カウンセリングなど、複数を相手にしてのセッションをおこないます。

その延長上で、ジョン・ウィンズレイドとジェラルド・モンクは、調停、対立解決、仲裁の文脈で、ナラティヴ・セラピーの考えを応用しました。それを、「ナラティヴ・メディエーション」と呼びます。私は、翻訳パートナーのバーナード紫さんと、同名の著書を日本語に翻訳しています。

この件であまりお呼びがかかることがないので、あまりメディエーションのことを語る機会もありませんでした。

そのような中で、ナラティヴ・セラピーに取り組むグループが大阪にありますが、そこがロールプレイで、仲裁のデモセッションをして欲しいとの依頼がありました。

設定された事例は、親の介護をめぐる姉妹間の調整です。長女が三女を連れてきて、セッションをおこなうというものでした。

話を進める上での場面設定をおこない、両者にそれぞれ語ってもらいます。片方の語りをめぐって、もう一方の語りが紡がれていきます。

事例自体は、グループの主要メンバーが工夫を凝らしていたので、さまざまなところで、会話がスムーズに進まない落とし穴がめぐらせてありました。この設定については、私はいっさい聞かされていません。

ナラティヴ・セラピーで培われた質問は、問題にはまることなく、問題の影響によって覆い隠されている部分をあからさまにしていったのかと思うのです。

そして、その部分の片鱗が見えると、そのことをカウンセラーが取り上げ、もう一方に提示していきます。その片鱗が、もう一方の視点から語り直されるというわけです。

このメディエーションのプロセスは、ナラティヴ・セラピーのセッションとあまり変わることはありません。ほぼ同じような姿勢で取り組むことができます。ただ、メディエーションならではの、工夫どころ、配慮のしどころはあります。

今回、メディエーションのデモセッションの機会をもらったことによって、このことにしっかりと取り組む意義を再確認できたような気がします。どこかでやってみたいと考え始めているところです。