料理のメタファー2:なぜニュージーランドなのか

ニュージーランドで開催されるナラティヴ・セラピー・ワークショップに参加することを人に話した時,「なんでニュージーランドなの?」と聞かれることが何度かありました。そのたびに何となく答えていたのですが,何かほんの少しひっかかるものが残りました。なぜなのかをうまく説明したいけど相手が納得する明確な理由を探せなかったのです。でも,料理のメタファーを考えているうちに,もしかしたら,そもそも明確な理由は要らないのかもしれないと思うようになりました。
たとえば「フランス料理を食べたいのでフランスに行ってくる」と言ったら「いいなぁ,うらやましいなぁ」などと言われることはあっても「なんでフランスなの?」と聞かれることは少ないでしょう。その土地の街並み,人々の様子,空気や温度,湿度などを感じ,その土地に合う料理を食べることの意義が,ある程度は共有されるからだと思います。インドに行った人から「あの暑さだと辛いカレーじゃないと食欲が出ないんだ」ということを聞いたことがあります。これもその土地でそこの料理を食べることの意義だと思います。
ところが,「料理を習う」場合は必ずしも同じではありません。たとえば「今度,中国料理を習いたいので中国に行ってくる」というと,「なんで中国なの?」と聞かれる可能性が高くなります。
以下は以前,知り合いの日本人料理人に聞いた話です。その人は東京にある山王飯店という大きな中国料理店で料理長を務めた経験がありました。中国の代表的な料理として北京料理,四川料理,広東料理,上海料理などがあります。このうち,北京で料理の修業をすると他の四川料理や広東料理,上海料理を習うことができません。他の地域の料理を教える人がそこにはいないからです。中国国内を転々として料理修行をすれば良さそうですが,それぞれに何年もかけていたら大変な修業期間になってしまいます。そこで中国人が目を付けたのが日本です。日本の場合,中国料理店だけではなく,ホテルの結婚式でも中国料理が出されます。さらに,北京,四川,広東,上海のどれか一つだけということは比較的少なく,それぞれ提供する機会があります。つまり日本に来て働けば様々な種類の中国料理を作る経験ができるのです。このような事情から,日本の有名店の料理長ともなると中国人料理人から大いに尊敬されることになりました。その結果,中国料理を本格的に習いたいから日本に行くという中国人が何十人も現れたほどです。以上のことから言えるのは,料理に何を求めるのかで「なぜ○○に行くのか」の答えが大きく変わるということでしょう。
ナラティヴ・セラピーの場合はどうでしょうか?他のカウンセリングと同様にテクニックの一つとして習得したいと考える人もいれば,土台・背景となっている考え方・哲学・文化を含めて学びたい(あるいは体験したい)と思う人もいるでしょう。それ以外には,カウンセリングをするためではなく,土台・背景を学ぶことで自分自身の生き方を豊かにしたいと思う人もいるでしょう。ということは,「なんでニュージーランドなのか?」と聞いてくる人がいた時,その質問者が何を求めているのかによって納得のいく答えは変わることになります。そういう意味であまり理由にこだわらなくてもいいのかなと思うようになりました。
ちなみに,私の場合,「なんでニュージーランドなのか?」に対する答えを帰国してから考え直してみました。ニュージーランドという見知らぬ国の文化に興味があった,そしてそこに会ってみたい人がいた,という二つかなぁ,という感じです。