これまで読んできたナラティヴ・セラピーの文献

先週の土日に、福島で開かれたナラティヴの勉強会に呼んでいただいたのですが、その際に、ナラティヴ・セラピーをこれから勉強していく時、どんな本があるだろうか、と聞いていただきました。それで、少し考えて、自分がこれまで読んできた本をリストアップして、ちょっとした所感を付けたものを作ってみました。せっかく作ったので、アセンブリにも(少し加筆修正して)上げておくことにしました。

とりあえず、今手元にあるものをあげていったので、忘れていたり、抜けているものもあるかもしれませんが。参考までにということで。まだ買ってない本もある気がします。

あとは、オープンダイアログや、リフレクティングなど、社会構成主義の時代の実践の本や、雑多に読んできたものの中にも大切だなと思いうものがありますが、きりがないのでひとまずはナラティヴ・セラピーというところで書いてあります。(とか言いつつ、バザーリアの本なんかも載せてますが…)

ちなみに、最後には、NPACC界隈で、今年度中くらいに出るんじゃないかという本のことも少し触れてあります。

「ナラティヴ実践地図」White(2007)金剛出版

  ナラティヴのエッセンスが詰まった、ナラティヴ・セラピーを学ぶ上では外せない一冊。ホワイトの魅力的な実際のダイアログがたくさん収録されていて、会話に臨むホワイトの姿勢や雰囲気や、そこでどんなことが起こる可能性があるのか知ることができる。

「セラピストの人生という物語」White(1997)金子書房(絶版?)

  慣れないと読みにくさは感じるかもしれない。でも、ナラティヴの大事にする哲学・世界観が、その言葉のまま色濃く書かれている。しっかりと味わいながら読みたい一冊。また、マイケル・ホワイトが支援者のことを語る語り口は、クライエントに向けるそれと同じ言葉であり、そこにはフェアな精神を感じる。

「あなたへの社会構成主義」Gergen(1999)ナカニシヤ出版

  ナラティヴとも重なる世界観を共有する社会構成主義について、ガーゲンが、多くの人にわかってもらえるようにと、しかし妥協せずにしっかりと書いた一冊。社会構成主義という新しいパラダイムがどんなものか知れるのは、それに基づく実践がどんな世界観に基づいているかを見せてくれる。

「自由こそ治療だ」Basaglia(2017)岩波書店

  イタリアの精神科の入院病棟開放に尽力したバザーリアの講演録。本自体は読みやすい。 直接、ナラティヴの話をしているわけではないが、支援者として、既存の支援の枠組みを無自覚に受け入れるのか、人を人として支援するとはどういうことなのか、支援者の在り方について、覚悟を持って語りかけてくれる一冊。

「ナラティヴ・プラクティス 会話を続けよう」White(2011)金剛出版

  ホワイトの論文集。第1部は理論的なところも多くて少し難しく感じるかも(でも、やはりこの本でしか読めない大切な部分も多い)。第2部の方が実際のダイアログもあり、伝わりやすいかもしれない。章ごとに独立しているので、気になるところを読んでみるのもあり。自死遺族との会話や、人を責任に招き入れていく会話など、何度でも読みたいダイアログが収録されている。また、序文の、エプストンが亡きホワイトにあてた手紙はぜひ読んでほしいところ。

「ナラティヴ・アプローチの理論から実践まで 希望を掘り当てる考古学」Monk, Winslade, Kathie, Epston(1997)北大路書房

  ナラティヴについて、網羅的に書かれている。ホワイトの著作が、ナラティヴの古典だとしたら、それを解説するような形と言えるかもしれない。でも、ナラティヴ系の本特有の世界観は維持されているので。

「ナラティヴ・メディエーション 調停・仲裁・対立解決への新しいアプローチ」Winslade & Monk(2000)北大路書房

  調停や仲裁、対立解決に向けた、ナラティヴの本。調停の世界でも心理療法と同じく実在論的な伝統モデルがあり、それに対するナラティヴの新しいアイディアやアプローチ、考え方を提案している。ナラティヴ・カウンセリングの本を読んでいるのとほとんど変わらない感触。むしろ、言葉や考え方の説明という点では、ナラティヴ著作群の中でもかなり明瞭に書いてくれている感がある。

「物語としての家族[新訳版]」White & Epston(1990)金剛出版

  ナラティヴ・セラピーの原点と言ったらこれ。思想的・哲学的な雰囲気のところも多く、正直難しさはある。でも、フーコーのアイディアからホワイトが描き出す世界観の、出発点が濃く書かれている。後半には、エプストンやホワイトが、クライアントに宛てた手紙も多く収録されていて、それを読むのも楽しい。

「ふだん使いのナラティヴ・セラピー」Denborough(2014)北大路書房

  デンボロウのナラティヴのアイディアの説明は、ホワイトとはまた違った語り口で、彼自身の体感的な言葉から書かれているので、こちらの方が理解しやすい人もいるだろう。ツリーオブライフやクラブオブライフなど、私たちがいろんな人や歴史との関係の中で生きていることを、ユニークな実践の例から見せてくれる一冊。

「ナラティヴ・セラピー 社会構成主義の実践」McNamee & Gargen(1992)遠見書房

  ホワイトとエプストンの「ナラティヴ・セラピー」よりも、もう少し大きい「社会構成主義のセラピー」に関する論文集といえる。読み物としては、学問的な読み物という感じもあるが、「社会構成主義のセラピー」がどんな見方で取り組もうとしているか、かなり根本的なところを書いてくれている気がする。

「会話・協働・ナラティヴ アンデルセン・アンダーソン・ホワイトのワークショップ」Malinen, Cooper, Thomas編(2012)金剛出版

  「社会構成主義のセラピー」に括れるだろう3人の大家の対話録。ホワイトの、書き言葉ではなく話し言葉が読めるのは単純にうれしいし、書き言葉よりもそこにあるニュアンスを感じ取れるかもしれない。また、他のセラピストの話や、ディスカッションも面白い。

「子どもたちとのナラティヴ・セラピー」White & Morgan(2006)金剛出版

  子どもとのナラティヴ・セラピーについて書かれた本だが、通底している考えは同じで、読みごたえもある。他の本にはない視点やディスカッションもあり、「子ども」に関わる領域でなくとも、読む価値を感じる一冊。後半には、ホワイトが質問に応答する形で、セラピーについて語っている部分も。

「ナラティヴ・セラピーの会話術」国重浩一(2013)金子書房

  浩さんが書いたナラティヴの本。日本人が日本人に向けて書いたナラティヴの本という意味で、また日本の文脈におけるダイアログも載っていて、そういう意味では手に取りやすい一冊と言えそう。また、格式張ったりしていない書き方で、著者である浩さんが見ている世界観を見られる気がする。

「いじめ・暴力に向き合う学校づくり」Winslade & Williams(2012)新曜社

  学校で起こること(いじめ、暴力、子供の対立、非行)などに対しての、ナラティヴのアイディアからの新しいアプローチを提案している。学校・教育現場という角度からのナラティヴの本で、訳す時も読みやすさにこだわってくれたようで読みやすい気がする。特に、「ひみついじめ対策隊」は必見。

「どもる子どもとの対話」伊藤伸二&国重浩一(2018)金子書房

  浩さんが、伊藤伸二さんと、どもり・吃音のある子どもとのかかわりについて書いた本。ナラティヴがメインというわけではないが、それだけに、ナラティヴについてまとめている所は要点を押さえて書いてあって、読みやすい。また、本題である吃音のある子どもとの様々なかかわりについても、読んでおきたいと思う。

「ナラティヴ・セラピーって何?」Morgan(2000)金剛出版

  入門書として書かれた一冊。(でも実はあんまり読んでいないのでなんとも言えない)。大切なところもちゃんと書いてあって、ナラティヴの概念や言葉遣い、アイディアに慣れ始めることができそう。実際の実践につなげていくとか、もっと先まで手を伸ばしていくという、さらに先の大切な過程に進んでいく準備という位置づけの本かも。

「ナラティヴ・セラピー みんなのQ&A」Russell & Carey(2000)金剛出版

  外在化/再著述/リ・メンバリング/アウトサイダーウィットネス実践など、1章ごとに、ナラティヴの主要な実践について、Q&Aという形式や、実践の後に理論を書いていっているなど、比較的読みやすい構造にしようとしていた気がする。でも、入門書というよりは、少し言葉や態度に慣れ始めたころに出てくるような疑問への回答もあり、それくらいの人を読者として想定している気がする。

「ナラティヴ・セラピー・クラシックス」White(2017)金剛出版

  ホワイトの論文集。まだ読んでないので何とも言えないが、楽しみにしています。

「手作りの悲嘆 死別について語るとき〈私たち〉が語ること」Hedtke & Winslade(2019)北大路書房

  こっちも最近発売されたばかりでまだ読んでませんが、死別・喪失・悲嘆といったところへのナラティヴのアプローチという、また他の本とは違う切り口の本で楽しみにしています。

・今後出版予定のもの(おそらく今年度内に)

「新しい自分に向かう旅路 ふたつの島とボート イラストで理解するナラティヴ・セラピー」(仮)

  初めての方でもわかりやすいように、また実用的になるように、イラストと、コアのところを繰り返し語ってくれる一冊。その見た目(薄さ、イラスト)からとっつきやすいし、小難しい話は抜きで、アイディアを提示してくれている。ワーク的にも使いやすいかも。

「ナラティヴ・セラピーのダイアログ 治療的会話を読み解く言語の発展を目指して」(仮)

  浩さんのセッションのダイアログと、そのダイアログの解説を浩さん以外の方々(日本人)が収められている本。実際のダイアログで、何がどのように起きているのか、という所からナラティヴやカウンセリングに接近しようとする本で、かなり面白いものになっているのではないかと思います。お楽しみに。