面倒なことをしていくこと

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ナラティヴ実践協働研究センターで、ナラティヴ実践トレーニングコースを開始しました。まだ、パイロットコースですので、プログラムの詳細についてはまだ試行段階のところがあります。しかし、基本的な方向性を変える予定はありません。

このコースにおいて、さまざまな課題(アサインメント)を受講生に課しています。文章を読むこと、そのことについて文字を書いていくことなど、面倒なことをするのを課しています。

なぜ、私たちはこのような面倒なことを、受講生に課すのだろうかについて、私は、自分なりの納得のいく意味づけをしておく必要がありました。コースでは、普通このようなことをするものだという説明もあるかもしれませんが、私は不十分どころか、そこをよりどころにしたくはないのです。

とくにこのことを考えていたわけではないのですが、このことを課していくことを自分なりに納得できる考え方が、自分の息子との会話の中でヒントが見つかりました。そのことをすこし書いてみたいと思います。

息子は、ニュージーランドの大学でITを勉強しています。何を勉強していくのかを聞くと、データベースであり、そのために、SQLを学んでいるのだと言うことでした。

データベースで何を作っているのか尋ねると、特別な難しいデータベースを作っているのではありません。しかし、自分でSQLというデータベースを操作する言語を一つひとつ書いて、データベースを作っているのです。

この時に、専門家というものがすることと、ユーザーがすることの違いを垣間見ることができたような気がしました。

データベースを作るためには、便利なツールがたくさんあります。Microsoft Access、File Makerなど、これらのアプリケーションを使えれば、高度なデータベースを作成することができます。つまり、SQLというデータベースの言語を知ることなしに、データベースを作成することができるのです。(よく調べていないのですが、PowerAPPを使えば、スマホのアプリもできてしまいそうです)

まったく知らない人から見たら、「データベースを作成することができてすごい!」となるのでしょうが、この人(私)は、データベースの専門家と称することはできないでしょう。なぜなら、それがどのように動いているのか、SQLという言語のレベルで理解していないからです。実のところ、私は、アクセスやファイルメーカーでデータベースを作成することができますが、その専門家であると自分を呼ぼうとも思いません。もしかしたら、上級ユーザー、またはアドバンスユーザーと名乗ることができるかもしれませんが、アプリケーションを利用して何かを作っているだけでは、専門家の領域に行くことはないのです。

専門家とは、SQLという言語のレベルでデータベースを理解するために、効率の悪い言語を身につけようと、時間と労力をかけた人であると見なせます。ここで、重要な点は、必要なデータベースのアプリケーションを作ることだけを考えると、この時間と労力は無駄です。アクセスやファイルメーカーを利用した方がよっぽど効率がいいのです。見た目も、たぶんこちらの方がいいでしょう。

それでも、この世の中には、このような面倒なことを時間と労力をかけて、取り組む人が必要なのです。なぜならば、そのような人たちだけが、データベースをつくるアプリケーションを作ることができるのですから。

ナラティヴ・セラピーについて、それをうまく使いこなすようなユーザーになりたい人もたくさんいるでしょう。できれば、上級ユーザーになりたいと思うのかもしれません。

しかし、NPACCのナラティヴ実践トレーニングコースで、受講生にユーザーになってもらいたいわけではないのです。ナラティヴ・セラピーの専門家になるべく取り組んで欲しいのです。それは、外在化の質問がうまく使える、再著述することがうまくできる、ということを意味しません。それは、ナラティヴ・セラピーがどこから来たのか、何を大切にしているのか、について、一つひとつ文献を理解し、それを実際に使ってみて、そして、そのことを自分で言葉にするという作業を通じて、接近した人だけがいける領域に来て欲しいのです。。

その手間の面倒さは、効率と生産性を求める現代社会にあっては、その価値を見いだせないのかもしれません。しかし、ナラティヴ・セラピーにそれなりの期間取り組んで来たものとして、その面倒さに取り組んでナラティヴ・セラピーを理解してくれた人がいることの大切さを、身に染みて感じるのです。

どの領域においても、ユーザーしかいない技法、手法、アプローチに魅力を感じることはないはずです。どのようにしたらいいのかについて、回答を求める、やり方を求めるユーザーに対して、何かを提供できるのは、面倒なことに取り組んだ人たちだけです。

この面倒なことは、能力が高いからできるとも信じていません。専門家が特別高級な人だとも思わないのです。ただ、面倒なことを一つひとつ取り組んだという経験があるかどうかです。

この件についてはもっと検討していく必要があると思いますが、ここまで書いてみました。

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