以前に、対談でお会いしたときに宇田川さんの語ることが、自分がナラティヴ・セラピーに取り組むときに大切にしたいと思っていることと重なっていることに対して、うれしいという気持ちと、不思議さを持っていました。まったく別の領域で活動してきて、同じようなところに到達することの不思議さでしょうか。そこで、宇田川さんが組織論をどのように語るのかに興味を持っていました。
宇田川さんの語り口は優しく、図も用いながら、私たちの理解に合わせてくれています。この姿勢こそが、宇田川さんがこの本書で書きたかったことを体現していることなのだと思います。
他者と働くときに、「自分のナラティヴを脇に置くこと」の重要性を訴えます。それは、自分の理解の枠組みであり、自分の考え方であるでしょう。それをいったん脇に置き、相手に立場からものごとを理解するようにすすめます。
本人自身が実践しようともしないで、人に提案やアドバイスする姿勢から出ててくる言葉に、私は敏感だと思っています。私は、そのトーンを宇田川さんの文章に感じないのです。つまり、宇田川さんは、自身が「自分のナラティヴ」を置き、相手のナラティヴを理解することに取り組んで来たのだと思いました。
そのような文章が伝えることは、机上の空論ではなく、可能なる実践論であると言うことでしょう。
自分の言いたいこと、主張したいことをグッと堪えて、相手の状況をしっかりと見ようとする姿勢。言うのは簡単で、するのは難しいかもしれません。でも、それは可能なことなのだと、本書は伝えたいのだと思ったのです。
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私はナラティヴ・セラピーを専門にして対人支援を生業としています。組織論や組織開発で、ナラティヴのことを聞くときに、自分の持っている知識や経験がどのように活用できるのかよく分からないでいました。
しかし、本書を読んで、自分が培ってきたところが、領域が異なれ大いにりようしてもらえる可能性があるということを理解できたところがありました。やっとつながった感じがしたのです。これからは、もう少しちゃんと組織開発の人たちと話が出来そうな気がします。
本書は、対人支援の人が読んでも実に学びの多いものであると感じました。対人支援の人も、家族、組織、グループに対応することがあるはずです。その時に本書の視点を持っていると大きな助けとなるでしょう。
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日本に帰ったときの紙の本を入手しようとしましたが、待てなくてKindle版を購入しました。時々、英語の専門書をKindle版で購入するのですが、レイアウトの統一がなくひどいものがありました。でも、本書はKindle版でもしっかりと作ってありました。気持ちよく読むことが出来ました。
是非一読を!