最近一緒に活動する機会をもらっている平木典子さんから、中釜洋子さんのことを度々聞いていました。それは、家族療法の領域において、貴重な人材を失ったという残念な気持ちを含んだものでした。そのため、一度、中釜洋子さんの著書を読んでみたいと思っていました。
最初に手に取ったのは、友人のすすめもあって本書「家族のための心理援助」です。
冒頭に説明があるのですが、本書は、2006年5月号から12回にわたり金剛出版の「臨床心理学」という雑誌に掲載されたものです。13章目を追加して、書籍としてまとめています。
書籍を読んでいて、連載という形態を取ったにもかかわらず、書籍としてしっかりと構造化されていることに驚きます。たぶん、しっかりと目次構成を考えてから、連載に臨んだのではないかと思いました。
記述するスタンスとして大切だと思ったのは、自分自身も悩みながら臨床に取り組んでいるということを棚上げすることなく書いていることです。絶えず、自分の考えをとりあえずの仮説としながら、それを提示しています。文章を読みながら、さまざまな対象について、常に複数の視点を持とうとしているのだということも、文章から読み取ることができました。
そして、ところどこにある、中釜さんのセッションの逐語は、文章を読むのものの理解を助けてくれます。
実際に臨床をしている人の書籍は何事にも代えがたいと改めて思いいました。
家族療法の概要をつかむためには、貴重な入門書になっていると思います。興味のある方は是非手に取って欲しいと思います。
ナラティヴ・セラピーに取り組む私は、ナラティヴ・セラピーや社会構成主義のことに触れながらも、理論の展開を「個人療法VS家族療法」という次元に留まっていると感じました。ところどころで、この次元を越えようとする試みもなされているのですが、この次元を出発点としてしまっているために、越えきれないと感じました。
このようなことを含めて、もっと考えを聴いたり、ディスカッションしてみたいと思う方でした。私との接点はないままでした。残念です。